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2007年9月

士は・・・

「宴会が毎日のように行われ

そんな中何故か、

私の二人の姉が慌しく嫁いだんだ」

孔明さんは解説書を読むように

恒温で当時を語り続けた。

「劉表の歓待が豪勢になればなるほど

私は不安になった・・・が・・・

叔父は・・・覚悟していたのかもな・・・」

孔明さんは寂しそうに笑った。

これ以上聞いたら、孔明さんの

傷口に塩を塗りこむことになるかもしれない・・・

私は、もういいですよ、と言おうとした。が、

「元直兄、玄子、最後まで聞いてくれるか?」
            
          
        

「も、もちろん」

私と元直さんは姿勢を正して返事した。

玄叔父さんは、同行を願う孔明さんを

荊州に残したまま、その後間もなく

劉表の命で豫章へ行ったのだと言う。

「叔父が劉表の命により豫章へ赴いてすぐに、

朝廷・・・宦官への賄賂の見返りに

豫章太守に命じられたのであろう、

朱皓が攻め込んだんだ。

玄子、お前が叔父の立場ならどうする?」

朝廷に命じられたほうが正式?

いや、でも元々は劉表の領地だったんだし

何より劉表との友情重視だよね。
           
        
      

「劉表に援軍を頼む」

「なぜ?」

「だって、劉表のために

豫章に行ったんじゃん!」

そうだよな、と孔明さんは微笑した後

「あいつが、劉表が叔父に送ったのは

援軍ではなく、見殺しという道だったんだ」

「あ・・・」

元直さんは初めて聞いたようで、

声にならない同情の溜息を吐いた。
          
          
            

「兵糧も兵もなければ戦いようがなく

叔父は捕らえられた。

その時、敵将は降伏を促したが

叔父は・・・

『士は己を知る者の為に死す』

と命と引き換えに信念を貫いて・・・

惨殺されたんだよ」
            
           
              

孔明さんの瞳は氷のように凍てついていた。

「助けようとさえしなかった劉表・・・

いや、この乱世、主君の仮面に踊らされた

叔父が・・・虚しいな・・・」

なんか、このままじゃ

孔明さんの心まで凍てついてしまう・・・

「叔父さんがそういう心の持ち主だからこそ

孔明殿は、元直殿と心友として

解り合えているんだよね」

え?と孔明さんが私をみた。


         
         
     

「そうだろ。

俺たちと劉表ごときを

一緒にされちゃあ、困るぜ、孔明」

元直さんが珍しく真面目に熱い眼差しを見せた。

「元直兄、玄子・・・」

孔明さんは我に返ったように

ハッとして、白羽扇を左右させながら微笑んだ。
          
          
「ほぉ、KYは撤回してやるぜ、玄子」

元直さんが、ニマ~と笑った。      

「で、元直殿は、どうやって

孔明殿と知り合ったの?

はい、次!元直殿の番です」

私は元直さんの代わりに進行役を努めた。
          
         
          

「え?俺も??」

ふっ、甘いぜ!元直さん!

「私も詳しく聞いた事はないな」

孔明さんが、いつもの口調で促した。

「しゃ~ね~な~」

元直さんは、孔明さんの笑顔をみて

安心しながら、ちょっと嬉しそう?に

話し始めた。
       
          
          

「俺って、こう見えても

剣、強いんだぜ」

もしかして、自慢話??

|

恩義の容

孔明さんは、曹操のことは

嫌っているけど、劉備って

人のことは嫌いではなさそうだ。

「そういえば、その劉備、

ここ荊州に客将として迎えられたって

話だよな」

元直さんが好奇心を抑えながら

孔明さんの顔色をうかがった。

「ふぅん・・・」

あれ?反応無しだ。

さっきまでは確かにリトマス紙も

反応していたのに。
             
           
            
「劉表の客将・・・

利用されないことを祈ってさしあげようか」

孔明さんが皮肉交じりに言っているのは

「おいおい、孔明」

元直さんの苦笑いから解った。
          
         
「玄叔父さんは利用されたの?」

どっひゃ~ってな顔で

元直さんが固まった。

「お、お、お、お、お前な~

あまりにも直球すぎるだろ、

KYって呼ばれるぞ?」

この二人相手だと

聞きたいこと、つい口に出しちゃうんだよね~

「孔明殿、ごめんなさい」

けど、さっきのは、流石にちょっとひどい。

反省・・・・・。

孔明さん、只でさえ良くない機嫌

さらに悪くなったかも・・・。
          
           

「そんな小さな漢(おとこ)にみえるか?」

孔明さんは、サラ~と澄まして言った。

「私は何でも話すと玄子に約束したんだ

お前はお前の思ったことを言葉にしただけ。

正直なことは、いいことだ。

少し・・・羨ましい気もする」

って言える孔明さん、実は純粋なのか?

いや、まさか!
           
           
          
「孔明、叔父さんは劉表に

命じられて豫章の太守になったんだろ?」

元直さんって、世渡り上手だよな~。

「ああ。叔父と劉表は昵懇の中でな。

荊州に迎えられてからほぼ毎日

叔父のために宴席を設ける歓待ぶりだった」
                
              
孔明さんは、ふ~と溜息を吐くと

「その容(かたち)だけの恩義が

結局は、叔父を・・・追い詰めたんだが」

恩義が人を追い詰める??
              
                 

「劉表が叔父に与えた死に方は

私が容易に人を信じないよう

学ばせるためであったのかもしれないな」

ゴクッ

私と元直さんは固唾を呑んで

孔明さんを見守った。

|

決意

「玄叔父さんが荊州の

劉表に迎えられることになり、

瑾兄さんが結婚したのを機に

私たちは瑯琊・・・といっても

玄子、わから・・ないな?」

孔明さんの話は声のせいだろうか?

とても聞き易く、

耳に心地いい。

「そんなの後で俺が説明する!

孔明、次だ、次にいけ!

話の腰をおるな!」

元直さんは、

まどっろこしいのは御免だと

ばかりに話を進めさせた。
              
               
                
「ま、良いか。とりあえず、

私の生まれ故郷から荊州へ向かったんだ。

徐州城はその時に通ったんだが・・・」

孔明さんは、一瞬、生唾を飲んだ。

「あんなに沢山の屍をみたのは

後にも先にも・・・・・

兵士ではなく、何の罪もない

領民たちが、女子供にいたるまで

虐殺されていたんだ」

珍しく孔明さんが声を詰まらせた。

「さっき言った、曹操がやったんだ」

元直さんが代わりに話を進めた。
                
                 
              

「何のために?」

私には話しがまだ見えてこない。

「父親の復讐のために、だ」

孔明さんは冷静な声色を取り戻していた。

「あいつにだけは、

何が遭っても絶対に天下を取らせない」

でも、その瞳は生涯の決意を籠めて

魂の揺らぎをみせていた。
              
             
             
「私怨で徐州を攻める曹操に、

徐州太守の陶謙は全国に援軍を求めたが

誰も曹操の敵になろうってやつはいなかった

そんな世の中だったんだよ」

元直さんが首を振った。

「ああ。劉備だけだったな、

後先考えずに救助に向かったのは」

話が逸れている気もするけど

「劉備って?」

話を少し、明るくしたい気もする。

孔明さんの表情、怖いから。
            
              
「地よりも先に、

天に己の居場所を見つけた

遊侠の士。

乱世の曲者だよ、劉備は」

孔明さんは無表情で答えた・・・

つもり?かもしれなかったが

僅かに瞳が柔らかくなったのを

私は見逃さなかった。

|

玄子

「玄子?」

私と元直さんは同時に声をあげた。

「どっから来る玄子なんだ?」

元直さんが、口角を上げて聞いた。
           
             
「元直兄も一枚噛んでいますよ」

「え?俺も友情出演?」

「だとしても、ギャラは払わないんで~」

言われる前に言っておかなきゃ。

「たまにしっかりしてるな、お前・・・

じゃなくて、玄子は。で、何で玄子?」


            
                   

「徐XUと元直の元YUANを

足して2で割れば

XUANという発音になる。

私が道端でぶっ倒れている君を

運悪く見つけてしまったのが

私の叔父、諸葛玄の命日だったからな。

XUANという音に玄を当ててみた」

叔父さんの命日?

「あ・・・・・」

元直さんが顔を曇らせた。

「なに?」

「それより、子はどうした?

元直さんが話題を逸らした??

でも、まだ玄子の玄しか

謎は解けていなかったんだ。

叔父さんの話はあとで聞こう。
            
                                  
             
「・・・・・特になし」

そっけなくいう孔明さん。

「はぁ?」

玄にそこまで気合いれて子は意味なし?

「あ~そういうことか」

ヒヒヒ~と元直さんが笑った。

「どういうこと?」

「知りたいか?」

「100%確実なら」

元直さんは孔明さんの

顔を見ながら反応を待った。

「いいだろ?」

「じゃ、頼みます」

孔明さんは微笑を浮かべて

白羽扇で顔を扇ぎながら庭先に目をやった。
             
              
              
「孔明の孔」

珍しく謎掛けのようにいう元直さん。

「孔明の孔?」

孔?子+L・・・

「あ~~~~そういうこと?」

「そういうことだ、ろ?孔明?」

「・・・・・気に入ってもらえたかな。

・・・玄子」

玄子・・・・・なんか、

「それってよくなくない?」

均ちゃんがお茶のお替りを運んできた。

「均、なんだその言葉遣いは!」

孔明さんが首を振った。

「お兄ちゃん、最近、玄叔父さんに

似てきたね」

均ちゃんが無邪気に燥(はしゃ)いだ。
             
               
「玄叔父さん・・・」

すっごく聞きづらいけど聞きたい・・・

「玄叔父さんのこと

教えていただけませんか?

名前を一文字頂いた縁もあるし」

聞きたかったから、聞いた。

「そうだな・・・」

孔明さんは暫し、茶杯を手にしたまま

何かを考えていたが
            
                
「私の両親は早くに亡くなり

叔父の玄が面倒を見てくれたんだ。

2人の姉と、兄の瑾、弟の均、

それから私の5人を両親に代わって

面倒を見てくれたんだ」
            
                
一度、お茶をゆっくり喉に流すと

孔明さんは過去の哀しみを

乗り越えるように話してくれた

「徐州で私が見たのは地獄絵図だった」

|

名前

「徐州の悲劇?」

なんだろう?

「えぇえ?お前、知らないのか?」

元直さんが大きい目を更に大きくして

驚いた。

「ここで目覚めるまでの記憶が

全然なくって・・・・・・」

何にも思い出せない。

思い出そうにも何を思い出せば

いいのかさえ解らない。
         
        
「気に病むな。

記憶を失ったのもまた

天命であろう」

孔明さんは、無関心なのか、

それとも・・・??
          
           

「徐州での悲劇、

教えてください」

世間で知らない人はいない哀しみ、

見逃したくはなかった。

「曹操・・・ってのも記憶にないか?」

元直さんが診察するように訊いて来た。
              
                
               

「CAO CAO(ツァオ ツァオ)?」

聞いた事はないなぁ~ 人名なの?

「草草(cao cao)じゃないぞ?

漢字はこう書くんだ」

実は面倒見の好い元直さんは

指先をちょっと茶水に浸して

こげ茶色の机の上に

「曹操」と書いてくれた。

「ちなみに、字は孟徳」

孔明さんが付け加えた。
          
            

「ふ~ん・・・曹操さんか・・・」

「この時代に曹操を知らない奴が

いるとは、ある意味新鮮だな」

元直さんの瞳が好奇心を見せた。
         
           
              

「曹操の名前はいいのだが、

ところで・・・君、名前は?」

と孔明さんが

思い出したように聞いて来た。

「へ~孔明から名前を聴く事もあるのか。

初めて見たな」

どういうことだろう?

「こいつ、他人に興味示さないから・・・

我関せず人間だからな、お前は」
         
元直さんの言葉を無視して

孔明さんは続けた。

          
「私たちの名前を聞いたのに

自ら名乗らないのは、

如何なものかな?」

っていわれてもな~

「名前さえ・・・失くしてしまいました」

じゃなかったら、自己紹介くらい

してるって。
         
          

「では、今つけることとしよう。

私の頭金支払いはそれからでも

遅くは在るまい?」

名前なきゃ、名無しの権兵衛だから

権兵衛さんって呼ばれるのもヤダしね。

名無しなのに、権兵衛って名前は

どこから出てきたんだろう?

本とに権兵衛って名前の人に

失礼だよね~。

なんてくだらないことを

考えていたら
     
            

「玄子、で如何かな?」

|

早春賦

「で、何を聞きたいんだ?」

孔明さんは白羽扇で

煽ぎながら、私と元直さんの顔を

交互に見比べた。

「その若さで隠居生活をすることになった

謎の性格の由来!」

私は正直だけが取り柄だ。
            
          
        
「おいおい、お前、

孔明に面と向かってよく言えるな

人にはそれぞれ事情ってもんがあるだろ」

元直さんが、お粥に咽(むせ)ながら

顔面を顰(しか)めた。

「元直殿ってたまに、裏切るよね!」

私は元直殿を睨んだ。

元直さんが勝手に交渉したから

こうなったのに・・・。ひっど~!
         
            

「そんなんで、いいのか?」
          
孔明さんは、白羽扇の動きを止めた。

「えぇえ!?孔明、いいのか?

不機嫌になるかと思ったのに」

元直さんがヤッタ!と小さく

ガッツポーズをとりながら

表面上は気遣いを見せた。
            
            
「こうもはっきりと言われれば・・・。

それに、約束はどんなことでも

護らねばな。

だが・・・私自身、残念なことに

自分が謎の性格だとは思ってはいないんだが。

君のほうがずっと謎だ」

孔明さん、まさか、

それが答えなんて言わないでしょうね?
                 
               
            
「じゃ、俺と会うまでのお前を

話してくれ」

元直さんが我が事なれり!

とばかりに、すんなりと進行役に回った。
            
「なんか、元直さんが一番

いいとこ取ってない?」

元直さんは

「べっつに~♪」

と無邪気に笑ったままだ。

何気にこういうタイプが一番

長生きするかも・・・・・。
           
           
          

「一週間も話

進んでいなかったんだから

早く言えよ!」

元直さんに急かされて

孔明さんは

「・・・徐州の悲劇、覚えているか?」

深い哀しみを静かに切り出した。

|

交渉

元直さんは、

一度部屋を出て、

孔明さんが来ないのを確認してから

話し始めた。
          
        
          
「まずは、あいつの名前教えてやるよ。

姓は諸葛」

「諸葛?珍しい苗字だね」

「まったくだ。俺なんて徐だぜ。

有り触れていてつまんね~

ってま、いいや。

名は亮、字はお前も知ってる通り

孔明だ」
        
      
       

「諸葛亮・・・孔明・・・。

ところで、この際だから

元直殿のお名前を伺ってもよいですか?」

「俺?徐庶!よろぴくね~☆」

元直さんは、大きな瞳を

無邪気に輝かせた。

流し目の孔明さんとは

性格も対照的だけど

それがいいのかもしれない。
         
           

「俺と孔明は兄弟同然の仲だ

これから、俺からみた孔明の今日までを

教えてやる、孔明に言うなよ?

あいつ、プライバシー保護法を

研究しているくらいだから」

法律を研究するなんて

やっぱ只者じゃない。

「絶対に言わないから!

教えてくださいませ!

謎だらけで怪しいんだもん!

孔明さんって」

と身を乗り出した瞬間
         
           

「ほぉ、誰が怪しいと?

げ、この声は。

来るの早い!

「孔明殿!」

「げ!お前いつの間に?」

元直さんがシマッタ、と

舌を出した。
       
       
「他人の過去をべらべら語るのは

如何なものかと・・・」

羽の剣が左右に風を切った。

「え~孔明の吝(けち)!」

元直さんがつまらなそうに言うと

「じゃ、粥もなかったことに・・・」

孔明さんは淡々と返した。

「わ、悪かった!

俺は言わない!だから粥くれ!」

って元直さん!

粥に負けるんかい!?

       
       
「孔明殿、それならば、

孔明殿自ら、孔明殿の今日までを

教えてください。

それだったら、いいでしょ?」
           
          
「・・・・・君が四大文明である

絵画 書道 棋 琴の どれかを

一つでも嗜(たしな)むことが出来れば

いいだろう」

なんじゃそりゃ~

もったいぶるなよ!

「いいぜ!」

って元直さん、やるのは私だって!

「俺が指導してもいんだろう?」

「ま、いいでしょう」

二人だけで話し進めてるし・・・
        
     
「おい!俺も孔明からじっくり

聞きたいんだ!黙って承諾しろ!」

元直さんって・・・。

「わ、わかりました」

孔明さんより今は元直さんが恐い。
       
           
「な、孔明。交渉成立。

頭金として、少しは話しろ!」

なんか、いいように扱われてる?

ま、いっか!

「頭金?君たちには叶わないな」

孔明さんは微笑を浮かべると

やっと、半生を語ってくれた。

|

羽の剣

「・・・本当に良く食べるな、君は」

三度目のお替りを盛り付けながら

孔明って人が面白そうに私を見た。

「孔明殿・・・だっけ?

見かけによらず美味しいの作るね!」
           
          
        

見かけは、とりあえず、長身だ。

細身だから余計に背が高く思えるのかも

しれないけど・・・。

端整な顔立ちだから言葉も丹誠??

何だ かんだ 言って、

相手を思いやっての

言葉を発してるからな・・・。
        
         
          

「見かけによらず?

それで誉めているつもりなのかね?」

「それはもう、心から」

「フッ」

あ・・・それだよ、それ!

瞳が遠くを見据える時、ふと、

「孔明殿は本当に農民なの?」

と思ってしまう。

「あぁ、そうだよ。

晴耕雨読がライフワークだ」
         
         
         

まだ若いのに、もう隠居生活??

「孔明殿は今、おいくつですか?」

何でも知りたいお年頃・・・。

「25だ。文句あるかね?

それより、黙って食べられないのか?

立ち上がったのも束の間、

その後再び昏睡したのかと思ったが

粥を作り終えた途端に意識をとり戻すとは」

素は優しい人なのかと思う瞬間もあるが

「ほら、残すな!

それは血行を良くしてくれる薬草だ」

油断すると急に厳しくなる・・・。

いや、こっちが本性かも。
       
            
      

「だって苦いもん!」

何なの、これ?

草!って味しかしないじゃん!

「良薬口に苦し、だ。

この私が直々に作ってやったんだ

有難く残さず食べなさい」

言い方97%は腹立たしいけど

間違ったことは言っていないんだよね。

く、くやしひ。
       
     
        

「よぉ!生き返ったか!」

お、この声は

「元直殿!!でしたよね?」

孔明さんに負けを認めさせた

地獄で仏の救世主!

「ほぉ、元直兄の名前を覚えていたのか?

そんなに余裕があるとは思えなかったが」

孔明さんが目を少し大きくした。
        
      
           

「今お粥を食べられるのも

元直殿のおかげですから・・・

その節はありがとうございました!」

元直さんはまさに、

命の恩人ともいえましょうや。

「大袈裟なやつだなぁ。

俺より孔明に礼は言ったか?

お前の為に一日がかりで

薬草採りに行って来たんだぜ」

一日がかりで?
       
       
     

「元直兄!これ以上余計な口出しは

お控え下さい」

孔明さんは、手にしている

白い羽で作った剣?

みたいなものを

元直さんの顔の前に突きつけて

言葉を遮った。
          
         
      

「孔明殿、それは羽の・・・剣?

斬られたらやっぱり痛い?」

これを持ったらどう見ても

農民じゃないよ・・・。

元直さんもこれ見た途端

黙っちゃったし。

「羽の剣?」

孔明さんと元直さんは

同時に顔を見合わせた。
       
       
       

「ははははっ」

次の瞬間、二人は同時に大笑い。

「いや。これは・・・ほらもってみろ」

え?扇??

「これで人は斬れないよ

これは、ガチョウの羽で作っているんだ

羽毛扇ってとこかな。

白いから白羽扇か?」

白羽扇・・・カッコいいな。
         
         
       

「けど、剣以上に斬れる時があるから

気をつけろよ」

元直さんが意味深長なことを漏らした。

「え?」

「何かおっしゃいましたか?

元直兄!」

孔明さんは白羽扇を大きく左右させた。

「ん?べつに~♪

俺も久々にお前が作った粥が食いたい!」
          
            
          

元直さんの粥を用意しに

孔明さんが部屋を出ると

元直さんは

若くして隠居の身になった

孔明さんのこれまでを

語ってくれた。

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